内分泌代謝・糖尿病内科の武市幸奈氏は「運用の構築がちょうどリブレ2の発売時期と重なったことが、取り組みを加速させました。リブレ2のデータはクラウドに保存され、付属のリーダーでもスマートフォンでもクラウドからデータをダウンロードできるため、患者さんと医療者がデータをリアルタイムに共有できます」と語ります。また小児科の虫本雄一氏も、「以前は主治医が自分で、データのアップロード、AGPレポート等のダウンロード、印刷、電子カルテへのスキャン依頼を行っていましたが、今はその時間を診療にあてられるので、患者さんとコミュニケーションをとる時間が増え、双方にとって良いことです」とコメントしています。
九州大学病院の事例
武市 幸奈 先生 内分泌代謝・糖尿病内科 助教/栄養管理室 室長/糖尿病診療支援センター(前列右)
虫本 雄一 先生 小児科 助教/糖尿病診療支援センター(前列中央)
川満 紀子 氏 検査部 副技師長/糖尿病診療支援センター(前列左)
今丸 範子 氏 看護部(後列右)
小林 亜希 氏 患者サービス課(外来担当)(後列左)
Point
- 九州大学病院では、rtCGM(FreeStyleリブレ2)と糖尿病管理システム「リブレView」を活用した運用を構築し、2024年7月から本格運用を開始した。
- 外来採血室をハブに、クラーク・臨床検査技師・看護師が連携し、採血待ち時間を活用してデータを取り込み、臨床検査情報システム経由で電子カルテへ反映することで、患者の待ち時間負担を軽減しつつ診療効率を向上させている。
- さらに、リブレViewを用いてAGPレポート等をその場で患者さんと共有することで、生活習慣改善の振り返りや目標達成度の可視化が可能となり、アドヒアランスや満足度の向上にも寄与している。
| 導入前 | 導入後 |
|---|---|
|
|
糖尿病診療の一元化へのハードルは高かった
2024年に発売されたFreeStyleリブレ® 2(以下、リブレ2)は付属する糖尿病管理システム「リブレView」を併用することで、使用者の血糖値等のデータの評価に用いるAGP(Ambulatory Glucose Profile)レポートが提供され、リブレLinkアプリによって主治医とリアルタイムでデータも共有できます。そうした機能により、糖尿病の患者さん個々の状態に合わせた血糖管理を可能にします。九州大学病院では、このリブレ2の有用性に早くから着目し、導入を発売当初から模索していました。しかし、そこにはいくつかの課題がありました。同院でもCGMは早くから活用していましたが、糖尿病診療に携わる診療科が複数の内科診療科に加え、心療内科や小児科もあり、データも各科がそれぞれのPCで管理していたため、リブレViewで提供されるAGPレポート等を入手するために、各診療科のPCからインターネットに接続していました。また、AGPレポート等を電子カルテに取り込むには、一旦印刷したものを院内のスキャンセンターに依頼する必要があり、電子カルテで閲覧できるようになるのは翌日以降でした。そこで同院では、糖尿病診療支援センターの活動の一環として、リブレ2のrtCGMデータを十分に活かすために必要なリブレViewを活用した運用の構築に取り組みました。
検査部へのタスク・シフト/シェアが構築の重要な要素に
システム構築の鍵は、検査部がリブレのデータ管理を担ったことでした。臨床検査技師等に関する法律施行令の一部を改正する政令、および臨床工学技士法施行令の一部を改正する政令が令和3(2021)年7月9日に発出され、同年10月1日から施行されたことで、医療現場でのタスク・シフト/シェアが進んでいます(図1)。この法令に準拠し、リブレ2から得られる患者データを臨床検査技師がクラウドへアップロード後、AGPレポート等をダウンロードして、電子カルテに検査結果として送信する一連の業務を担う体制をとってはどうかという意見がでました。さらに、検査部で運用している臨床検査情報システムでは電子カルテにダウンロードしたPDFデータを即時に送信することができると考えたことも理由の1つでした。それとともに、2022年8月に糖尿病専門部会が発展的な形で糖尿病診療支援センターとして開設されたことで、リブレView 活用システムの構築に道が開かれました。糖尿病診療支援センターは、糖尿病専門医、歯科医師、看護師、薬剤師、管理栄養士、臨床検査技師、医療クラークなどが院内の各診療科と連携し、先進的かつ集学的な糖尿病診療を提供することを目的にしており、診療科横断的な取り組みも可能となりました。
看護師の説明の標準化がポイント
リブレ2を患者さんに新規に導入する際は、まず看護師が外来処置室で使用法や使用上の注意点を説明します(図2①)。同院の外来看護師は異動が多いため、糖尿病診療に携わる看護師の説明と指導を統一できるように、説明用資材を常備するとともに、リブレ2の勉強会も頻繁に実施しています。「リーダーの場合は受診時にお預かりしてデータをダウンロードしてお返ししますが、スマートフォンの場合はリブレLinkアプリを介してクラウドにデータが送信されるようになっています。そのため、導入する際の説明では、スマートフォンを日常的に使用する患者さんにはリブレLinkの説明も行っています」(武市氏)。看護部の今丸範子氏は、スマートフォンによるリブレ2の導入例に際し、看護師が行う対応をこのように語っています。「スマートフォンを選択した患者さんでも、スマートフォンの操作に不慣れな方もおり、アカウントの作成の方法がわからない場合や、パスワードを含めた設定を家族任せにしている方もいます。ご自身でアカウントを作成している人の中には、当院の医療プラクティスIDとの連携をしていない方もいます。こうした例の対応も看護師が行います」。
アカウントを作成し、リーダーやスマートフォンでリブレ2の設定が完了すれば患者さんの側の準備は終了です。主治医は次回の検査項目に、リブレ結果取り込み用のオーダー(図2②)を追加します。
採血の待ち時間にデータを取り込むことで患者さんの負担を軽減
糖尿病患者さんの多くは、再診時、診察前に外来採血室で採血をします。同院の1日の外来患者数は約3000人におよび、約700人が外来採血室で採血を行うため、待ち時間が採血前に30分~1時間、採血後の結果が出るまでにさらに1時間~1時間半あります。すなわち、来院してから診察までに2時間以上待つこともまれではないのです。そこで、同院が構築したリブレView運用ではこの待ち時間を活用し、クラークと臨床検査技師が連携してリブレ2内のデータの取り込みを行います(図3)。
その際、リーダーを使用している人とスマートフォンを使用している人では若干手順が異なります。リーダーを使用している人は、採血の受付時にリーダーをクラークに渡します。それを臨床検査技師が受け取り、データを取り込み、臨床検査情報システムを介してAGPレポート等を電子カルテに格納(送信)します(図4)。
一方、スマートフォンを使用している場合は、主治医が出したリブレのデータ取り込みのオーダーを臨床検査技師が前日に確認し、採血受付後にAGPレポート等を抽出し、やはり臨床検査情報システムを介して電子カルテに格納(送信)します(図5)。検査部の川満紀子氏はリブレ2のデータ取り込みを日常業務に追加することについてこう語っています。「通常の検査データの処理はいつも採血室の近くで行っているので、リーダーの受け取りもすぐにできます。患者さんの待ち時間を有効活用するかたちで、検査データと同じ感覚でリブレ2のデータも臨床検査情報システムで送信するので、臨床検査技師として、業務内容に大きな違和感はありません。リブレView運用構築に加わり、先生たちのお役に立っていると思えることは、私たちの仕事へのモチベーションにもつながっています」。
リーダーの受け渡しはクラーク(患者サービス課)の担当
患者サービス課(クラーク)の小林亜希氏は日々の心がけを次のように話しています。「当院の外来採血室で採血される患者さんは非常に多く、それをできるだけ早く滞りなく進めていくことが私たちの使命です。ただリーダーをお預かりした時は、持ち主に間違いなくお返しすることに気を使います。リーダーにはご本人のフルネームと九州大学病院IDを印字したラベルが貼ってあるので、その両方を必ず確認してお返しするようにしています」。なお、九州大学病院におけるリブレ2の使用者のデバイスは、当初はスマートフォンとリーダーが約1:2の割合でしたが、今はほぼ同等の割合になっているそうです。
データを患者さんと共有できることがメリット
同院の糖尿病診療ではリブレViewが日々活用されています。武市氏はAGPレポートなどのデータを電子カルテの画面に描出し、患者さんと一緒に見ながら診療することを心がけているそうです。「患者さんと低血糖や高血糖時の行動を振り返り、食事や生活面での改善点を一緒に考えます。診察時に電子カルテでAGPレポートを把握できるので、改善点や目標到達度を患者さんとリアルタイムに共有できます。また、栄養指導時にもAGPレポート等を活用でき、管理栄養士さんにとっても指導の充実につながっているとの声をききます(武市氏)」。また虫本氏も「データをすぐにその場で患者さんと共有できることが一番のメリットです。診療のたびにリブレViewのさまざまな機能を活用して、患者さんの状態を細かく確認できるので、より精度の高い糖尿病診療を提供できます」と語っています。そうした患者さんとの密なコミュニケーションが、アドヒアランスや満足度の向上にもつながると言えるのではないでしょうか。
システム構築により、リブレViewを活用した診療が拡大
先述したように、九州大学病院には糖尿病に関わる診療科が、成人対象の3つの内科に加え、心療内科と小児科があります。長年にわたり、各科にはそれぞれのこだわりやルールがあり、所属医師も各自のポリシーのもとで診療を行ってきた歴史があります。そのため、新しい仕組みをこれら複数の診療科の間で統一することは容易ではなく、リブレView活用システムの構築においても高いハードルがあったといいます。こうした状況の中で、そのハードルを下げる役割を果たしたのが、多職種で構成される糖尿病診療支援センターの開設でした。コアメンバーによるPHRデバイスサブワーキンググループも立ち上げられ、責任の所在も明確化されました。リブレViewの活用にあたり、事前に院内の個人情報保護小委員会、クラウドサービス利用申請の手続きが必要でしたが、糖尿病診療支援センターとして進めることができました。患者さんの受診動線上にある中央検査室をハブとして、クラーク、臨床検査技師、看護師などが連携する体制を整えることで、採血の待ち時間を活用したリブレ2のデータ取り込みと、ネットワークセキュリティに配慮したデータ送信が可能となる運用が構築されました。こうしてリブレView活用システムは、院内における糖尿病診療の質と機動力の向上に寄与しています。最後に武市氏は、「当院の糖尿病診療の課題について共通認識を持っているメンバーが集まり、何とか良くしようとの思いでまとまったことが運用構築の原動力になったと思います。今後も一致団結して、患者さんたちに最良の糖尿病医療を提供していきたいと思います」と抱負を語ってくれました。2026年1月末時点で、同院のリブレView登録者数は441名に達し、今後も増え続けることが予想されています。地域の糖尿病診療のさらなる進展が期待されます(図6)。
ADC-2692309 v1.0 06/26

